プロローグ

遺言執行者は、あなたの残した遺言の内容を実現するための手続きを行います。遺言書作成時に遺言執行者を指定することをお勧めします。

遺言がある場合の遺産承継業務委託契約

遺言がある場合、遺産承継手続きは遺言書の内容を中心に進んでいきます。遺言執行者を必要としない遺言の場合は、遺言書の趣旨に従い遺産承継業務委託契約を締結し、承継手続きを遂行していきます。一方、遺言執行者の指定がある場合は、相続人は、遺言執行の対象となっている相続財産について遺言執行を妨げる行為を行うことができないので、遺産承継業務委託契約の範囲は、遺言執行に抵触しない範囲に限定されます。

遺言書で遺言執行者を指定することのメリット

民法1013条には「遺言執行者がある場合には、相続人は、相続財産の処分その他の遺言の執行を妨げるべき行為をすることができない」と定められています。これが意味するのは、遺言執行者は、遺言者の最終意思である遺言の執行について、これを妨げる行為を排除できる権限を有しているということです。つまり、遺言執行者を指定しておけば、遺言の実現を妨げる行為を排除できるので、遺言者は安心して遺言を残すことができます。

① 遺言執行者の指定方法

遺言書を作成する際に、遺言書において遺言執行者を直接指定します。また、遺言書で第三者に遺言執行者の指定を委任することもできます。例えば、母が遺言書を作成する際に「遺言者は、本遺言の遺言執行者の指定を、○○に委託する。」という具合です。当事務所が遺言執行者となることもできます。

② 遺言執行者の指定がない場合は家庭裁判所に選任の申立てをします。

遺言書の中に遺言執行者がいないと実現することができない遺言事項があるものの遺言執行者の指定がない場合は、家庭裁判所に遺言執行者の選任の申立を行う必要があります。この場合、特定の者を遺言執行者の候補者として推薦する ことができます。ただし、候補者が遺言執行者に選任されるとは限りません。当事務所が候補者となることもできます。

遺言執行のための準備

遺言執行者は、遺言者の最終意思を実現するために遺言の執行を行いますが、遺言執行の準備として下記の準備を行います。

① 遺言書の検認と開封

公正証書遺言や、法務局の遺言保管制度を利用した自筆証書遺言以外の遺言書については、家庭裁判所での検認の手続きが必要です。遺言書の保管者または遺言書を発見した者は、家庭裁判所に検認の申立をしなければなりません。

② 遺言の有効性の検討

遺言執行は、有効な遺言の存在を前提とします。よって、遺言書が有効な方式により作成されているか、遺言者の遺言当時の遺言能力の確認、公序良俗に反する遺言事項の確認、実現不可能な遺言事項の確認、法定遺言事項に該当しない遺言事項の確認等を行います。

③ 遺言の撤回の有無の確認

遺言は生前であればいつでも自由に撤回できるので、執行すべき遺言が後に書かれた遺言によって撤回されていないか確認する必要があります。具体的には、公証役場への照会や相続人等からの聞き取りを行います。また、内容の抵触する前後複数の遺言があるときは、抵触する部分について、後に書かれた遺言によって先に書かれた遺言を撤回したものとみなされます。これらの観点から遺言の撤回の有無を確認します。

④ 遺言の解釈

遺言書の記載内容が明確でない場合には、遺言者の遺言書作成当時の状況等を考慮し、また、過去の判例等を検討し、できるだけ遺言者の最終意思と合致するよう遺言を解釈する必要があります。遺言執行者の解釈と相続人等の意見が合致しない場合には、相続人等と協議をし、遺言執行者の解釈を理解してもらうよう努めます。合意に達しない場合は、最終的には訴訟により裁判所の判断を求めることになります。また、遺言の記載内容から、遺贈なのか、相続分の指定なのか、遺産分割方法の指定なのか、など法的な解釈を行い、遺言の執行を行います。

⑤ 相続人等への通知

相続人や受遺者その他遺言執行をするのに必要な範囲の利害関係人に、遺言執行者に就任した旨の通知をします。遺言執行者は、相続財産の管理その他遺言執行に必要な一切の権利義務を有する旨、また、相続人は遺言執行を妨げるような相続財産の処分等の行為ができなくなる旨を通知します。また、通知書には遺言書の写しを添付し遺言内容を相続人等に明らかにします。

⑥ 相続人の調査確定

相続人等への通知を行うに際し、相続人を確定する必要があるので、戸籍を調査し、法的事項を検討した上で、相続人を確定します。

⑦ 相続財産の調査

遺言執行者は、遺言に定められた遺言執行の対象となる相続財産を管理し処分する権限を有しますので、遺言執行の対象となる相続財産の範囲を把握するために、就任後速やかに相続財産の調査を行います。遺言書作成後に取得した財産に関しては関係者から事情聴取し、相続財産を調査していきます。

⑧ 相続財産の管理

遺言執行者が就任すると、遺言執行の範囲で、相続財産の管理および処分権限は遺言執行者が有することになり、相続人は相続財産の管理および処分権限を失います。したがって、遺言執行の範囲内の相続財産は、遺言執行者の管理下に置かれ、遺言執行者が保管することになります。具体的には、不動産権利証、預貯金通帳、実印、各種証書、貸金庫鍵、貴金属等を預かり、遺言執行者が保管管理します。

⑨ 財産目録の作成および交付

遺言執行者は、遺言執行の範囲内の相続財産の調査を行った上で、相続財産目録を作成し、相続人に交付します。

遺言の執行

遺言執行者は、上記の準備を終えた後、遺言の内容に従い遺言を執行します。下記においては、法定遺言事項(遺言で実現できるものとして法律で定められている事項)のうち遺言執行者の関与が必須となる事項(②認知、③廃除、④一般財団法人の設立)、または、関与することがある事項について個別に説明します。

① 遺贈

遺贈とは、遺言によって、遺産を他に譲与することです。相続欠格者は受遺者(遺産を受け取る人)になることはできませんが、それ以外は制限はなく、自然人、法人ともに受遺者となることができます。なお、受遺者が遺言者より先に死亡したときは遺贈は効力を生じません。

遺贈の執行は、登記、登録、通知、引渡し等の方法で行います。下記に主な遺贈の目的物ごとに執行の内容を説明します。

・不動産の遺贈の執行

受遺者を登記権利者、遺言執行者を登記義務者(遺言執行者がいない場合を相続人全員が登記義務者)として、所有権移転登記を申請することで執行を行います。

・動産の遺贈の執行

遺言執行者の管理下にある貴金属、絵画、家財道具等の目的物を受遺者に引渡すことによって執行を行います。

・自動車の遺贈の執行

遺言執行者の管理下にある自動車を受遺者へ引渡すことおよび自動車登録ファイルにおいて受遺者への移転登録を行うことで執行を行います。

・預貯金の遺贈の執行

遺言執行者が預貯金の解約をし払戻しを受けて受遺者に引き渡すか、または、預貯金名義を受遺者に変更する方法で行います。ただし、金融機関によっては名義変更に応じない可能性もあります。

② 認知

遺言によっても子を認知することができます。適法な遺言の中で父が子を認知することで、父の死亡と同時に法律上の親子となります。遺言執行者は、就任から10日以内に市区町村に認知の届出をしなければなりません。この届出は遺言執行者以外の者からすることができないので、遺言執行者が遺言で指定されていない場合は、家庭裁判所に遺言執行者の選任の申立をしなければなりません。

③ 推定相続人の廃除または廃除取り消し

推定相続人の廃除とは、被相続人の意思によって、遺留分を有する推定相続人の相続権を剥奪する制度です。この推定相続人の廃除は遺言によっても行うことができます。廃除は、家庭裁判所の審判によって行われますので、遺言執行者は、廃除の意思が記載された遺言が効力を生じた後、遅滞なく、その推定相続人の廃除を家庭裁判所に請求しなければなりません。

また、遺言執行者は、廃除の審判が確定した日から10日以内に、市区町村に推定相続人廃除届を提出しなければなりません。さらに、被廃除者が廃除の審判が確定する前に遺産を処分するのを防ぐために、遺言執行者は家庭裁判所に対して遺産の処分禁止の審判の請求をしなければなりません。

一方、被相続人の生前の請求により確定した廃除の審判を、遺言によって取り消すことができます。遺言執行者は、遺言に廃除取り消しの意思が記載されていた場合、遅滞なく、家庭裁判所に廃除取り消しの請求をしなければなりません。また、遺言執行者は、廃除取り消しの審判が確定した日から10日以内に、市区町村にその旨の届出をしなければなりません。

この遺言廃除の手続きは遺言執行者以外の者からすることができないので、遺言で遺言執行者の指定がない場合は、家庭裁判所に遺言執行者の選任の申立をしなければなりません。

④ 一般財団法人の設立

一般財団法人の設立を遺言によって行うことができます。遺言執行者は、遺言に記載された内容に基づいて、設立の登記を申請します。この遺言による一般財団法人設立は、遺言執行者以外の者からすることができないので、遺言で遺言執行者の指定がない場合は、家庭裁判所に遺言執行者の選任の申立をしなければなりません。 

⑤ 信託の設定

遺言によって信託をすることができます。遺言執行者は、管理している財産を受託者に引き渡します。

⑥ 祭祀承継人の指定

遺言によって祭祀承継者の指定があった場合、遺言執行者は、祭祀用財産を祭祀承継者に引き渡します。墳墓のような祭祀用不動産がある場合は、所有権移転登記を申請します。

⑦ 生命保険金の受取人の指定・変更

遺言によって生命保険金の受取人の指定・変更をすることができます。遺言執行者は、保険会社に対してその旨の通知をします。

遺留分

遺留分制度とは、一定の相続人が最低限の割合の相続財産を承継できるよう保障する制度です。例えば、被相続人の相続人として妻と子一人がいた場合、被相続人が全財産を子に相続させる旨の遺言を残したとします。法定相続分は妻と子が2分の1ずつなので、遺言がなければ、妻も半分を相続できたはずです。ところが、遺言によって、このままでは妻は財産をまったく相続できません。この場合、財産の4分の1が妻の遺留分として保障されます。妻は、遺留分侵害額請求をすることで、子から財産の4分の1を取り戻すことができます。

① 遺留分権利者(遺留分を有する相続人)および遺留分割合

遺留分権利者は、兄弟姉妹以外の相続人、つまり、配偶者、子、直系尊属であり、遺留分割合は、下図のとおりです。

  • ※(  )内は代襲相続が発生した場合の相続人です。
    代襲相続とは被相続人の子や兄弟姉妹がすでに亡くなっている場合に、孫や甥·姪が相続人に代わって相続することです。
    (注)祖父母やひ孫など、上記以外にも法定相続人が存在する場合があります。

② 遺留分の額の算定

③ 遺留分侵害額請求

自己の遺留分が侵害されたときに、受遺者や受贈者などに対して、遺留分侵害額請求をすることによって、侵害された遺留分の範囲において、遺贈や贈与の効力を失わせることができ、これにより、返還請求をすることができます。

遺留分侵害額請求は、遺留分権利者が、相続の開始および減殺すべき贈与または遺贈のあったことを知った時から1年で、時効消滅します。また、相続開始時から10年を経過しても時効消滅します。

報酬

遺言執行は、遺産承継業務委託契約の一環として行いますので、報酬については遺産承継業務委託契約をご確認ください。

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