プロローグ

遺族のために遺言書を残しましょう。遺言書を残さなかったために、遺産分割を巡り相続人の間に確執が生まれたり、煩雑な相続手続きに非常に多くの時間と手間をかけさせてしまうかもしれません。

遺言書を作成する必要性が高い場合

遺言書がなければ、法定相続人が法定相続分で相続するか、相続人間で遺産分割協議を行い相続するかのいずれかになります。特別にご自身の意思を反映させたい場合は遺言を残す必要があります。

① 法定相続人ではない人に遺産を残す場合

内縁の妻や夫、看病してくれた息子の妻、孫、特定の団体などは相続人としての資格がないため、遺言に記載しない限り、 遺産を残すことができません。

② 法定相続分とは違う割合で相続させたい場合

事業を継いでくれる長男にすべての財産を残したい、長年尽くしてくれた妻にすべて相続させたい、障害を持つ子に多くの財産を残したいなどの相続は、遺言があると可能となりますが、遺言がない場合は、相続人間の遺産分割協議に委ねることになるので、他の相続人の主張により実現の可能性は低くなるでしょう。

③ 前妻との間にも子がいる場合

現在の妻との間の子のほかに、前妻との間にも子がいる場合は、遺産相続について感情的な問題が起こりやすいと言えます。

遺言によりご自身の意思を残しておくことで、不要な争いを避けることができるでしょう。

④ 相続人がいない場合

一定の手続きを経て、相続人がいないことが確定した場合、その相続財産は、家庭裁判所の審判により特別縁故者に分与されます。そして残った財産は最終的に国のものとなります。相続人がいない場合に特定の人や団体に財産を残すには、遺言によることになります。

次の人も遺言が不要という訳ではありません

① 法定相続どおりに財産を分けてくれればいいから遺言は不要だと考えている人

妻と子供2人がいる夫が亡くなった場合、法定相続人と法定相続分は、妻2分の1、子は各4分の1となります。相続人に遺産分割協議の意思がない場合、これらの割合で相続することになりますが、実際にはこの割合で財産を分けることが難しい場合があります。財産が全て現金や預貯金等の分割が容易なものであれば特段問題はありませんが、不動産などの分割が難しい財産が含まれている場合は、共有名義にするか売却して売却代金を分けることになります。この場合、「自宅不動産は妻、預貯金は子2人で均等に」と遺言で指定することで、妻は自宅に住み続けることができます。 

② 財産が少ないから、または、生前に財産を使い切るから遺言は不要だと考えている人

財産が少なくても相続手続きは発生します。金額が少なくても金融機関の口座数が多ければ、その調査だけでも時間と手間がかかります。また、金額が少なくても相続人の数が多ければ、遺産分割協議がまとまらず時間がかかる可能性は高まります。その結果、長期間銀行からお金を引き出すことができなかったりと様々な不都合が生じます。

また、生前お金を使い切るというのは現実的に不可能なので、財産が残るか、または、債務が残った状態で相続は開始します。

遺言書を残すことのメリット

① 遺族の方の相続手続きの負担を軽減できる

遺産相続の手続きには非常に多くの手間がかかります。しかし、遺言書があれば、相続財産の把握もしやすく、遺言書の内容によっては相続手続きが簡単になります。仕事が忙しい相続人や高齢や病気の相続人にとっては、メリットが大きいでしょう。

② 遺産争いを防ぐことができる

遺言書がないと、故人が遺産分配についてどのように考えていたのかがわからないので、相続人が好き勝手な主張をし遺産分割協議がまとまらず裁判所の調停や審判まで行ってしまったり、発言力が強い相続人が財産を独り占めし他の相続人が生活に困ることもあり得ます。遺言書を残すことで、このような争いを防ぐことができます。 

遺言書を残していなかったために予想外の事態になることも

① 妻が自宅を手放す事態に

子どもがいない夫婦の夫が亡くなり妻が残されました。夫の両親もすでに他界しており、疎遠な弟が1人いるだけです。相続財産のほとんどは自宅です。遺言がない場合、弟には法定相続分4分の1があるので、弟が自身の相続分を主張してきたら、自宅を妻と弟の共有状態にするか、自宅を売却して売却代金から4分の1を弟に渡すといった方法をとらなければなりません。売却を選択した場合は、妻は自宅を失うことになります。一方、遺言によって、全財産を妻に残す旨を残していれば、弟には遺留分がないので、妻は自宅を失うことはありません。

② 銀行からお金を引き出せない事態に

故人の口座からお金を引き出す際に、銀行から遺産分割協議書または相続人全員の同意書を求められることがあります。相続人の中に行方がわからない者がいたり、遺産分割協議がまとまらない場合などは、銀行から生活費さえ引き出せない事態も起こりえます。遺言書を残すことで、このような事態を避けることができます。 

③ 相続手続きに多くの時間と手間がかかる事態に

数年前に父が亡くなった後最近母が亡くなったが、その子どもは遠方に住んでいて、母が父から何を相続したのかも、さらに母自身の財産も把握していませんでした。母の銀行口座を調査するだけでもかなりの時間と手間がかかり、遠方に住んでいる子にとってはかなりの負担です。この場合、遺言書に財産として銀行口座が記載されていれば、このような時間と労力を省くことができます。

遺言書作成の準備

遺言書を作成するために次の準備をします。

① 財産リストの作成

預貯金、有価証券、不動産、保険など、おおよその評価額を記載します。住宅ローンなどの負債も記載します。

② 法定相続人の確認

戸籍調査等により、法定相続人とその法定相続分および遺留分を確認します。

③ 誰にどの財産を残すのかを決める

ご自身の意思を記載しますが、極端な内容だと相続人に不公平感が生じる可能性もあります。

遺言書に書くことで効力が生じる事項は限定されています(法定遺言事項)

遺言に記載することで法的な効力が生じる事項は、民法等の法律で定められた事項に限定されます。

① 認知(民法781条2項)

婚姻外の子を遺言で認知することができます。認知を経て、この子は相続人になります。

② 未成年後見人の指定(民法839条1項)、未成年後見監督人の指定(民法848条)

親権者のいない子の後見人を遺言で指定できます。また、親権者のいない子の後見人を監督する者を遺言で指定できます。

③ 推定相続人の廃除および廃除の取消し(民法893条、894条)

遺言によって、非行がひどい相続人(兄弟姉妹を除く)を相続人から廃除し相続資格を失わせることができます。また、生前に廃除手続きをした者の廃除を遺言で取り消すこともできます。

④ 祭祀に関する承継者の指定(民法897条1項)

葬儀やお墓の管理をしてもらう人を遺言で指定できます。

⑤ 相続分の指定または指定の委託(民法902条)

法定相続分と違う割合を遺言で指定できます(例:妻3分の1、子A3分の1、子B3分の1)

⑥ 遺産分割方法の指定または指定の委託と遺産分割の禁止(民法908条)

どの財産を誰に分けるかを具体的に遺言で指定することができます(例:自宅不動産を妻に相続させる)。また、遺言により死後最長5年間は遺産分割を禁止することができます。

⑦ 遺贈、負担付遺贈(民法964条)

誰かに財産を単に遺贈するだけでなく、負担付で遺贈することもできます(例:預貯金を遺贈する代わりに妻の介護をせよ)

⑧ 遺言執行者の指定または指定の委託(民法1006条)

遺言内容を確実に実現するために、遺言執行者を遺言で指定することができます。

⑨ 遺留分侵害額請求方法の指定(民法1047条1項)

遺留分を減殺する手順を遺言で定めることができます。

⑩ 信託の設定(信託法3条2号)

⑪ 特別受益者の持戻し免除(民法903条3項)

⑫ 共同相続人間の担保責任に関する別段の意思表示(民法914条)

⑬ 一般財団の設立・財産拠出(法人法152,158条)

⑭ 保険金受取人の変更(保険44,73条)

遺留分には注意が必要です

相続人には最低限保障された権利割合があり、それを遺留分と言います。例えば、長年連れ添った妻がいるのに、遺言で愛人に全財産を遺贈するとした場合、妻の最低限の権利(遺留分)を保障するために、遺留分権者(妻)は遺留分侵害者(愛人)に対して、その侵害する範囲で財産を戻すよう請求することができます。  遺留分は遺言に優先しますので、遺留分を侵害する内容の遺言は侵害の範囲で無効となります。正確には、遺留分権者から遺留分侵害額請求があって初めて侵害分が無効になります。遺留分侵害額請求がなされなければ、その遺言は有効なままです。

下記のような方法で遺留分を考慮したほうがよいでしょう。

① 遺留分権者には最低でも遺留分を相続させるような遺言にする。

② 財産を相続させない相続人に対しては、生前贈与などをし、遺留分放棄を依頼する。

遺言書の種類と書き方

法的要件、法的形式を満たしていない遺言書は無効となることもありますので、注意が必要です。

司法書士等の専門家の確認を経て、遺言書を作成することをお勧めします。また、相続税対策として遺言を残す場合は、遺言書作成時から税理士等を交えるのがよいと思います。

遺言の方式には、普通方式と特別方式があります。普通方式には、自筆証書遺言・公正証書遺言・秘密証書遺言があり、特別方式には、死亡の危急に迫った人の遺言・船舶遭難者の遺言・伝染病隔離者の遺言・在船者の遺言があります。ここでは、普通方式の遺言について説明します。

① 自筆証書遺言

自筆証書遺言とは、遺言者がその全文、日付および氏名を自筆で書き、押印した遺言書です。したがって、パソコン等で作成したり、代筆してもらったものは認められません。また、パソコンで本文を作成し署名だけ自筆の場合も認められません。

自筆証書遺言の加除その他の変更は、遺言者が、その場所を指示し、これを変更した旨を付記して特にこれに署名し、かつ、その変更の場所に印を押さなければなりません。

[日付について]

作成年月日のない遺言は無効です。年月の記載だけで日の記載のないものも無効です。

日付は「還暦の日」とか「第何回目の誕生日」などはその日付が特定できるので認められた事例がありますが、「平成何年何月吉日」のような日が特定できないものは無効です。

[氏名について]

戸籍上の正しい氏名を書くのが原則です。雅号または通称名を書いた場合で遺言者本人が特定できる場合に有効とされた事例はあります。しかし、不動産の相続登記手続が発生する場合は、戸籍上の氏名を書いたほうがよいです。雅号や通称名だと、不動産の登記事項証明書に記録されている所有者と遺言者が同一人であることを証明するのが困難になるからです

[住所について]

自筆証書遺言において、住所は必ずしも記載する必要はありませんが、遺言者を特定するためにも住所を記載するのがよいです。

[押印について]

遺言書に押された印に制限はなく、いわゆる実印や認印のほか、指印でも認められた事例があります。しかし、後日の紛争を防ぐために実印を押すのがよいでしょう。また、遺言書が数枚になる場合には、各用紙の間に契印をします。

[検認について]

公正証書遺言以外の遺言の場合、その遺言書の保管者は、相続開始を知った後、遅滞なく、遺言者の最後の住所地の家庭裁判所で検認の手続きをしなければなりません。遺言書の保管者がいない場合において、相続人が遺言書を発見したときも同様です。検認を経ていない自筆証書遺言を不動産の相続登記申請書に添付しても所有権移転登記の申請は受理されません。

[不動産の表示について]

不動産の表示は登記事項証明書の記載どおりに正しく書いたほうがよいです。たとえば「自宅を妻に相続する」と書いても、それが不動産の相続登記の申請書に記載された物件であるか判断が困難だからです。なお、相続させる人が1人の場合であれば「私の所有する不動産の全部を妻に相続させる」という遺言も有効です。

[相続させるについて]

相続させる場合には、「〇〇に相続させる」と記載するのがよいでしょう。「〇〇にやる」「〇〇に与える」「〇〇にあげる」と記載した場合、それが「相続」なのか「遺贈」なのか判断が難しいからです。

② 公正証書遺言

公正証書遺言とは、遺言者が公証人の面前で遺言の趣旨を述べて、公証人が遺言書を作成する遺言です。原則として遺言者が公証役場に出頭して作成しますが、遺言者が病気等で出頭できないときは、公証人に自宅や病院に来てもらうことも可能です。なお、公正証書遺言は公証役場で保管され、家庭裁判所の検認は不要です。

公正証書遺言は次の方式に従わなければなりません。
  • ・証人2人以上の立会いがあること。
  • ・遺言者が遺言の内容を公証人に口述すること。
  • ・公証人が、遺言者の口述を筆記し、これを遺言者および証人に読み聞かせ、または閲覧させること。
  • ・遺言者および証人が、筆記の正確なことを承認した後、各自これに署名し印を押すこと。ただし、遺言者が署名することができない場合には、公証人がその事由を付記して、署名に代えることができる。
  • ・公証人がその証書はこれら方式に従って作ったものである旨を付記して、これに署名し印を押すこと。

③ 秘密証書遺言

公証人と証人の前に封印した遺言書を提出して、遺言書の存在は明らかにしながらも内容を秘密にして遺言書を残すことができる方式の遺言です。遺言書は自筆でも代筆でもパソコンで作成したものでもかまいません。ただし、署名と押印は遺言者が行うことが必要です。秘密証書遺言の加除その他の変更は、遺言者が、その場所を指示し、これを変更した旨を付記して特にこれに署名し、かつ、その変更の場所に印を押さなければなりません。

秘密証書遺言の場合、その遺言書の保管者は、相続開始を知った後、家庭裁判所で検認の手続きをしなければなりません。

遺言書の保管者がいない場合において、相続人が遺言書を発見した後も、同様です。

秘密証書遺言は、次の方式に従わなければなりません。

  • ・遺言者が、その証書に署名し、押印すること。
  • ・遺言者が、その証書を封じ、証書に用いた印鑑をもってこれに封印すること。
  • ・遺言者が、公証人1人および証人2人以上の前に封書を提出して、自己の遺言書である旨並びにその筆者の氏名および住所を申述すること。
  • ・公証人が、その証書を提出した日付および遺言者の申述を封紙に記載した後、遺言者および証人とともにこれに署名し、印を押すこと。

④ 自筆証書遺言と公正証書遺言の比較

当事務所としては、安全性・確実性の観点から、公正証書遺言をお勧めします。

報酬

公正証書遺言

税込 176,000円~

自筆証書遺言

税込 66,000円~

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